グラスへら竿を変えた「江戸川」

それまでほとんど竹製だった釣竿に新しく登場したグラスロッド。昭和30年代の後半のことです。グラス製のヘラブナ竿も登場し、一部では「ガラス竿」「化学竿」などとも呼ばれました。

初期のグラスロッドは、継口の部分に金属の輪がはめられ口割れしないように補強されていました。その後、継の部分に竹竿と同じように糸が巻かれるようになり金属の輪は姿を消しました。しかし、竿全体は、「振り出し」と呼ばれるアンテナのようにするすると伸びる1本仕舞いでした。

当時竹竿の安物は数百円で購入でき、釣具店には竹を切ってそのまま竿にした、より安価な延べ竿も売られていました。釣り堀などではこの延べ竿を釣り客に貸し出していました。

これに対し、グラスロッドは7尺や8尺の短い竿でも1000円を超え、長い竿になると数千円といった値段が付けられていました。

1987年の桜釣具カタログの表紙は保美大沼。現在では閉園

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並継ぎへら鮒竿「江戸川」の登場

昭和39年になるとサクラのへら竿「江戸川」が登場。

グラスロッドですが竹竿と同じように並継ぎで、当時としては飛び抜けて丁寧な段巻きの塗りが施されたへらぶな竿でした。

やや太めの握りも竹竿の高級へら鮒竿に負けないほどしっかりしていました。ただ、価格も高く、安いヘラブナ用グラスロッド竿の2倍から3倍といった高級品でした。

並継ぎにしたことで、竿の調子は振り出しのグラスロッドとは比較にならないほど優れたものになりました。一時期は「グラスは江戸川でなければへら竿ではない」と言われたほどです。

振り出しヘラブナ竿との大きな違いは、並継ぎなので穂先の元径を細くすることが可能になったこと。それにより、竿全体のテーパーをより竹竿に近く調節することが可能になったのです。

また、多くの振り出し竿では、穂先自体がムクとパイプのいわゆる継穂になっていました。そして継穂のムクの部分とパイプの部分の曲がりのパワーが異なり、ムクの先だけが不自然な曲がりになってしまっていました。

遠くから見ると、竿が満月ではなく「7」の字のように曲がってしまいます。こうなると、魚を寄せても手前でグルグル回ってしまい、取り込みに苦労することになります。

この点、「江戸川」は穂先全体がムクで、竿全体がキレイに円弧を描いて曲がり、魚の引く力を竿全体で受け止めることができました。

「江戸川」がなぜこの時期に、並継ぎのグラス製へら竿を作るようになったのかは、同社がもともと和竿での長い歴史を持っていたことと無関係ではないと思います。

「江戸川」のコミ部分などはおそらく和竿の技術を使い手作業で調整されていたのだと思います。その後にさまざまなメーカーから出た並継ぎのヘラブナ用グラスロッドの中には、コミが固着してしまう竿がけっこうありましたが、「江戸川」の竿にはそういう現象はほとんど起こりませんでした。

1987年には江戸川もカーボン竿が主体になっています
江戸川の握りはやや太めで独特。個性溢れるデザインです

「江戸川」以降のへら竿

「江戸川」が注目を集めた頃は、竹竿も非常に活気のあるころでした。「孤舟」や「源竿師」といったトップクラスの一流のへら鮒竿は尺単価(30cmあたりの価格。つまり10尺の竿だと、尺単価×10が価格になる)が3-5万円以上もしました。10尺の竿だと、30万円以上です。貨幣価値を考えれば、とんでもない高級品と言えます。

それ故に、一般的にはグラス製ヘラブナ竿が普及していきました。「江戸川」と同じような並継ぎ竿がいろいろなメーカーから続々と誕生。「淀川」「鴨川」「静」「高千穂」などが印象に残っています。なぜか「川」の付いたものが多かったです。

「江戸川」もヘラブナ竿のラインナップを充実、同じ13尺でも「硬」「中硬」など調子の違うものはもちろん、「別仕立て」という通常の5本継ではなく、4本継の竿も登場。さらに、塗りを豪華にした1セットで数十万円もするような竿や小継タイプもありました。

最近では、以前ほど「江戸川」の竿を使う人を見かけなくなりましたが、それでも同社のへら竿には和竿から受け継がれた「技」が込められています。

「魚を取り込む」ということと「魚を引っ張る」ということは、本来はまったく別の話なのですが、最近では硬い竿=魚を早く取り込めると信じ込んでいる釣り師が多いようです。

魚の引く力をいかに吸収して、繊細な仕掛けで魚を取り込むかというところにヘラブナ釣りの面白さがあります。そのためには、竿全体が美しい曲がりを見せてくれなければなりません。そういった視点で、もう一度竿を見直すと「硬い」という以外の答えが見つかるのではないでしょうか。

修理が長期間できる江戸川

「江戸川」の持つもう一つの大きな特徴が、修理が長期間可能という点です。

数年前に、遙か何十年前に購入した江戸川のグラスロッド製ヘラブナ竿を何本かまとめて、修理できるか聞きに行った事があります。

すると驚くことに、一眼見るなり「あぁ、ずいぶん昔の製品をお持ちですね。キレイに使っていただきありがとうございます。もちろん修理させていただきます」との返事。

どのぐらい前まで修理できるんですか? と聞くと「出来る限り修理させていただきます」と言われ、なるほど江戸川は竿の製造メーカーだが、竿師さんに近い感覚なんだ、と妙に納得してしまいました。

竹製のへら鮒竿も、ほとんどの場合修理が可能です。折れたり、口割れ、ヒビなど、状態に合わせて最良の修理をしてもらえます。

竿を作った竿師さんが物故されている場合でも、お弟子さんや銘を継いだ竿師さんが面倒をみてくれます。

もちろん1本1本手造りの製品ですから、こういった対応が可能なんだと思います。江戸川の竿も同じように、手造り品に近い物があるんではないでしょうか。

大手メーカーのシマノでは、すでに普天元大我や閃光R、朱紋峰嵐馬あたりが修理不能。ダイワでも枯法師天成、鬼武者、一撃あたりが修理不能です。

ヘラブナ竿というのは、使っていくうちに愛着も出るし思い出も増えていきます。そういう点では、修理の心配が無いというのは大きいと思います。

昭和49年にオリムピックからカーボン竿のヘラブナ竿「世紀」が発売されるまで、グラスロッドのへら竿の時代は続きました。カーボン竿についてはまた別のページで紹介したいと思います。

写真は、手元にあったサクラ高級釣竿製造所の1987年のカタログから。

また、サクラ高級釣竿製造所webサイトへのリンクはこちら。「江戸川」シリーズの最新のヘラブナ竿のラインナップが確認できます。

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